芝の含水率は競馬場をまたいで比べていい?東京と小倉で考える馬場の読み方
東京の芝は14.1%、小倉の芝は7.2%。この数字を見て「東京のほうがずっと重い馬場だ」と考えてよいでしょうか。
芝の含水率は、違う競馬場の数値をそのまま馬場の重さや時計の出やすさの順位に置き換えられません。 水分の割合という数値は比較できても、その数値が馬場状態とどう結び付くかは、競馬場の路盤によって異なるからです。JRAの解説
では、どこまでなら読めるのか。実際の東京・小倉の測定表を使い、「確認できたこと」と「まだ言えないこと」を分けてみます。この記事の対象はJRAの芝コースです。
含水率は「馬が走る大変さ」を直接測った数字ではない
JRAが公表する芝の含水率は、採取した路盤砂に含まれる水分の重さの割合です。路盤は芝を支える土台の部分。芝の葉や根などを除いた試料で測るため、芝の表面がどれほどぬれて見えるかを表す数値ではありません。測定方法の説明
ここで、数字を読んだときの言葉を一段ずつ分けます。
- 「測定した試料の水分割合が高い」……含水率から読めること。
- 「レース全体で時計がかかる」……別の確認が必要なこと。
- 「この馬に向く」「この馬を買う価値がある」……馬の評価やオッズまで含む、さらに先の判断。
最初の一行から最後の一行へ飛んでしまうと、途中に必要な根拠が抜けます。含水率を使わないという話ではなく、何を測った情報として使っているのかを保つ、という話です。
たとえば予想メモに「水分が多いからパワー型を買う」とだけ書いた場合、あとから外れた理由を振り返ろうとしても、馬場の理解と馬の適性のどちらを見直すべきか分かりません。「公表値」「馬場についての仮説」「馬の評価」を別々に残すと、考え直す場所がはっきりします。
東京14.1%と小倉7.2%を、同じ日の記録で読む
次は架空の例ではありません。JRAの2026年第1回開催の一覧にある、2026年1月31日・午前5時測定の芝の値です。
- 東京・Dコース:ゴール前14.1%、4コーナー12.3%。
- 小倉・Aコース:ゴール前7.2%、4コーナー6.7%。

ゴール前の差は14.1−7.2で6.9ポイントです。これは百分率どうしの差を表す言い方で、「6.9%だけ増えた」という変化率とは区別します。
この資料から確認できるのは、同じ日・同じ測定時刻のゴール前では東京の水分割合が高かったこと。そして、両場ともゴール前と4コーナーの値が違っていたことです。
一方、この一覧には、その日の馬場状態区分、降雨量、各レースの走破時計は載っていません。この2行だけを根拠に「両場とも良だった」「東京は小倉より時計がかかった」とは書けません。 比較に使った資料が何を持っていないかも、読み方の一部です。
東京の数字が高めでも不思議ではない理由
JRAは、東京の路盤は他場より多くのバーク堆肥(樹皮を原料とする堆肥)を含み、良馬場でも高めの含水率を示すと説明しています。芝コースでは使われる砂や土壌改良材が競馬場ごとに異なり、含水率と馬場状態区分の関係も共通ではありません。各競馬場の路盤と含水率の関係
つまり、小倉の値を読む感覚のまま、東京の14.1%を「異常に水分が多い」と決めることはできません。まず東京の情報として読み直す必要があります。
ただし、この一般的な説明を使って、先ほどの6.9ポイントの差がすべて路盤材料によるものだった、と決めるのも行き過ぎです。あの2行は、天候や管理などの条件をそろえて材料の効果だけを調べた実験ではありません。比較の前提が違うことは分かっても、差の原因を一つに絞れるわけではないのです。
「同じ東京の前日比」なら、どこに注意する?
競馬場をそろえると、一つの前提はそろいます。それでも「東京の含水率が下がった」の一言で済ませると、測定地点の違いを落としてしまいます。
同じ東京の翌日の記録も見てみましょう。
- 1月31日・Dコース・午前5時:ゴール前14.1%、4コーナー12.3%。
- 2月1日・Dコース・午前5時30分:ゴール前12.3%、4コーナー12.7%。
ゴール前は1.8ポイント低下しています。ところが4コーナーは0.4ポイント上昇しています。片方の地点だけを見れば、逆向きの変化が目に入らなくなります。
このときの書き方は、たとえば「ゴール前は前日より1.8ポイント低く、4コーナーは0.4ポイント高い。測定時刻は翌日のほうが30分遅い」です。少し長くても、元の資料へ戻れる記録になります。
「コース全体が一様に乾いた」「午前中から午後まで乾き続けた」という説明は、この2日分の記録だけでは支えられません。測った地点と時点を越える部分には、別の観測が必要です。
2地点の平均を作れば解決するか
この例で単純平均を計算すると、1月31日は(14.1+12.3)÷2=13.2%。2月1日は(12.3+12.7)÷2=12.5%で、平均値は0.7ポイント下がります。
計算自体はできます。ただし、これはこの記事で計算した公表2地点の単純平均であり、JRAが発表したコース全体の平均含水率ではありません。また、一つにまとめた途端に「4コーナーでは値が上がった」という違いが見えなくなります。
平均を使うなら、元の2地点の値も残す。このひと手間で、自分の加工した数字と公表値を混同せずに済みます。
測定表で間違えやすい「芝・ダート」と「時刻」
JRAの開催別一覧には、クッション値、芝の含水率、ダートの含水率が同じ行に並んでいます。表を横に追うときは、見たい列の見出しから確認します。
先ほどの1月31日の行では、含水率の測定時刻は東京も小倉も午前5時。一方、同じ行にあるクッション値の測定時刻は、東京が午前7時、小倉が午前8時です。「行の左にある時刻」をそのまま含水率の測定時刻として写すと、違う時刻が記録されます。東京の表、小倉の表
記録するときは、次の順で列をたどると取り違えを見つけやすくなります。
- 見ている日付と競馬場を確認する。
- 「含水率」の測定時刻の欄を確認する。
- 「芝」の欄から、ゴール前と4コーナーをそれぞれ写す。
- コース表記も一緒に残す。
ここでのAやDも、それぞれの競馬場のコース表記です。東京Dと小倉Aを並べたことを、同一コース条件で比べたことに置き換えないようにします。
予想に使うメモは「公表値・仮説・未確認」を分ける
ここからは記録方法の提案です。実際の読者のメモや、検証済みの必勝手順ではありません。
まず、公表値を書きます。数字と出典を残す場所に、自分の馬場評価を混ぜないのがポイントです。
公表値の記録例
- 東京、芝、Dコース。
- 2026年1月31日、含水率は午前5時測定。
- ゴール前14.1%、4コーナー12.3%。
- 出典はJRA・2026年第1回東京の測定表。
- 馬場状態区分:この測定表では確認できないため、当日の発表を別途確認する。
次に、比較の目的を書きます。「含水率が高いか」だけでは、比較相手が抜けています。
比較したい問いの例
- 同じ東京の前日と比べ、各地点の値はどう動いたか。
- 過去の東京の記録と比べるとき、季節やコース表記、測定時刻はどう違うか。
- 含水率から想像した馬場像と、別途確認した当日の情報は一致するか。
最後に、仮説と未確認事項を添えます。たとえば「東京の数字が小倉より高いので時計がかかる」という考えが浮かんだなら、すぐ結論にせず、「場をまたいだ含水率の差だけでは判断できない。時計については別の根拠が必要」と書き直します。
使い回せる記録欄
- 対象:競馬場/芝/コース表記
- 時点:日付/含水率の測定時刻
- 公表値:ゴール前/4コーナー
- 馬場状態:公式発表の区分/確認した時点
- 比較:何と比べたか/そろっていない条件
- 自分の判断:仮説/根拠/まだ確認していないこと
この形なら、レース後に「仮説は合っていたか」を振り返るときにも、当時見た数字と後から知った情報を区別できます。単に当たったかどうかを残すより、どこから考え直すかを探しやすくなります。
なお、良・稍重・重・不良という馬場状態区分も、含水率だけで自動的に決まるものではありません。JRAは馬場全体を実際に歩いて確かめる「踏査」を含めて判断すると説明しています。数字から区分を自己判定して記録せず、発表された区分を確認してください。JRAの決定方法
次に含水率を見るときは、数字の横に競馬場名を置く
「14.1%だった」から、「東京・芝・Dコースのゴール前が、1月31日午前5時に14.1%だった」へ。この書き換えだけでも、別の競馬場や別の時点の数字を無意識に混ぜることを防げます。
今回の比較で残しておきたいのは、次の3点です。
- 場が違えば、芝の含水率を馬場状態へ結び付ける前提も違う。
- 同じ場でも、ゴール前と4コーナーの変化は別々に確認する。
- 数字の大小から、走破時計・馬の適性・買い時までを一度に決めない。
馬場についての仮説ができたあと、その評価を馬券の価格とどう結び付けるかは別の問いです。そこは「競馬の期待値とは?単勝4倍と6倍で、同じ馬の買い時はどう変わる?」で、勝率を仮定した計算例から説明しています。
参考資料
- JRA「馬場状態およびクッション値に関する情報」:含水率の測定対象、芝の路盤、競馬場ごとの違い、馬場状態区分の決め方。
- JRA「2026年第1回東京競馬 クッション値・含水率一覧」(PDF):1月31日・2月1日の芝の公表値と測定時刻。
- JRA「2026年第1回小倉競馬 クッション値・含水率一覧」(PDF):1月31日の芝の公表値と測定時刻。
資料確認日:2026年9月9日。図は上記公表値をもとに競馬大学が作成。見出し画像は特定の競馬場を再現したものではなく、記事の主題を表すイラストです。
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