騎手はなぜ鞍を抱えて量る?レース後の「後検量」のしくみ
レースを終えた騎手が、馬から外した鞍を抱えて建物へ入っていく。汗をかいた体の重さを調べるなら、なぜ鞍まで持っていくのでしょうか。
確認するのは、騎手の体重だけではありません。鞍や定められた装具も含めて、馬に負担させる重量を確かめるためです。 レース後に行うこの計量を「後検量(あとけんりょう)」といいます。
今回はJRAの仕組みをもとに、鞍を持つ理由と、ゴール後から着順が確定するまでをつなげて見ていきます。
馬が背負うのは、騎手だけではない
馬の背中には、騎手に加えて鞍が載っています。騎手は勝負服やブーツを身に着け、鞍には足を掛ける鐙(あぶみ)などの付属具があります。人だけを量っても、道具を含めた重量は分かりません。 そこで検量では、決められた範囲の人と装具を一緒に量ります。

このとき確認する「負担重量」は、馬自身の体重を指す「馬体重」とは別のものです。馬を体重計へ乗せる場面と、騎手が鞍を持って量る場面では、対象が違います。
また、馬に載る物を無条件に全部量るわけでもありません。JRAの規程では、鞭(むち)とヘルメット、番号ゼッケンは検量の重量に含めません。鞍は、付属具や鞍下毛布などを含めた扱いです。
出馬表の数字を、そのまま検量器の表示だと思わない点にも注意が必要です。前検量では、公表された負担重量に、保護ベストの標準的な重量分として1kgを加えた重量を確認します。体重だけを示す数字ではなく、何を含め、どの規則で扱うかが決まっているのです。JRA「競馬施行規程」第98・99条
前に量り、走った後にも確認する
レース前の計量は「前検量(まえけんりょう)」です。決められた重量で騎乗する準備ができているかを、出走前に確かめます。
それに対して後検量は、レースを走り終えた後の確認です。前に一度量っただけでは、その後も同じ条件で走り終えたかまでは確認できません。前の記録と後の計量を対応させることで、重量の条件をレースの前後で確かめます。

JRAでは、後検量を受けるのは原則として7位までに入線した馬の騎手と、裁決委員が指定した馬の騎手です。「勝った騎手だけの儀式」でも、「毎回、全員が同じように受ける手続き」でもありません。JRA「競馬用語辞典・検量」
前後の差が少しでもあれば直ちに失格、という意味ではありません。規程では、前検量の重量から後検量の重量を引いた差が1kgを超える場合などに、失格となる条件を定めています。観客が見えた数字の一部分だけで判断するのではなく、公式の発表で結果を確認する仕組みです。JRA「競馬施行規程」第120・123条
例:1位に入線したA騎手を追ってみる
ここで、A騎手の馬が最初にゴールへ届いた場面を考えます。中継には、A騎手が馬で戻り、下馬して鞍を外す様子が映りました。
まず観察できるのは、1位に入線したことと、騎手が使った鞍を持って移動していることです。この鞍は、単に片付けている荷物ではありません。後検量で騎手と一緒に量る対象でもあります。
A騎手は、検量所へ戻り、鞍などとともに後検量を受けます。ここで確認されるのは、定められた重量の条件です。鞍を持って歩く映像だけから、計量の結果や騎手の体調まで分かるわけではありません。

そして、A騎手の後検量が終われば、その場で自動的に1着が決まるわけでもありません。対象となる騎手の後検量や、レース経過など必要な確認を経て、裁決委員が着順を確定します。「最初にゴールした」という到達順位と、「1着と確定した」という結果は、確認の段階が違うのです。JRA「騎手の1日・後検量/レース経過の確認」
この場面で次に見るのは、A騎手の持ち物だけでなく、中継や公式結果の「確定」の表示です。映像で検量室の中が見えなければ、そこは未確認のままにし、公式発表で着順を確かめればよいのです。
次の中継では、鞍と「確定」をつないで見る
ゴール後の映像が続いたら、騎手が何を持って戻るかを見てみましょう。鞍から鐙が下がっていれば、「人と、この道具を一緒に量る」と結び付けられます。
その後は結果表示へ目を移し、入線直後の順位と、確定後の着順を区別します。検量の全工程が映らなくても、鞍を持って戻るのは重量確認のため、最終的な着順は公式の確定で確認するという二つがつながれば、レース後の時間の意味が分かります。
ゴールは走る競争の終点ですが、結果を確かめる仕事はその後にも続いています。
参考資料
- JRA「競馬施行規程」:第98・99条(前検量)、第120条(後検量)、第123・125条(失格・着順)。2026年9月2日最終改正版を確認。
- JRA「競馬用語辞典・検量」:前検量・後検量の概要と対象。
- JRA競馬学校「騎手の1日」:レース前後の検量と、レース経過の確認。
UMADAN