好走馬だけを集めた数字は信用できる?見えない失敗例から読む選択バイアス
「勝った馬の脚質を集めたら、先行馬が一番多かった」。そう聞くと、先行が有利なのだと考えたくなります。けれど、勝った馬だけを数えた結果が、そもそも何頭の馬の中から生まれた数字なのかは、見ないと分かりません。
好走した馬だけを集めた数字からは、勝つ条件を取り出せないことがあります。 集計の分母に、負けた馬や出走しなかった馬が入っていないからです。まず、数字の外に置かれている馬が誰なのかを確かめると、読み違いを防げます。
この記事では、勝ち馬だけで作った数字と、出走した馬全体で作った率を、同じ例の数字で並べて比べます。
見えているのは、選ばれた馬だけ
データを集めるとき、その対象がどう選ばれたかによって、結論がずれることがあります。Wikipedia「選択バイアス」は、研究に組み入れられる対象の選び方の誤りを選択バイアスと説明し、その一種として、不適切な標本抽出で母集団を代表しないデータが混ざる場合を挙げています。
その中でも、何らかの過程を通過したものだけで判断し、外れたものが見えなくなる偏りは、生存者バイアスと呼ばれます。たとえば、倒産した企業を除いて業績を調べれば、結果は実際より楽観的になります。成功した人の話だけを聞けば、同じ条件で失敗した多くの人は話に出てきません。
よく引かれる、第二次世界大戦の爆撃機の話もこの仕組みです。帰還機の損傷箇所だけを見ると、穴の多い場所を補強したくなります。ただし、同じ記事は、この俗説が統計学者ウォールドの研究内容と異なり、被弾しやすい箇所の存在を無視しているという指摘があると述べています。話の細部より、「帰還しなかった機体が図に含まれていない」という点を押さえておくと、競馬の数字にも当てはめやすくなります。
例:勝ち馬の脚質を数えると、先行が最も多い
例として、10頭立てのレースを100回行った場面を考えます。出走は合計1000頭、勝ち馬は100頭です。脚質は、先行・差し・その他の三つに分けます。
| 脚質 | 出走数 | 勝ち数 | 勝ち馬の内訳 | 勝率(勝ち数÷出走数) |
|---|---|---|---|---|
| 先行 | 400 | 40 | 40% | 10.0% |
| 差し | 200 | 25 | 25% | 12.5% |
| その他 | 400 | 35 | 35% | 8.8% |
| 合計 | 1000 | 100 | 100% | 10.0% |
勝ち馬だけを見ると、先行が40%で最も多くなります。ここで先行が有利だと結論づけると、少し早すぎます。表の出走数を見てください。先行は1000頭のうち400頭、つまり出走の40%を占めていました。勝ち馬の40%が先行なのは、出走の中で先行が多かったことと同じ割合です。
勝率で比べると、景色が変わります。先行は10.0%、差しは12.5%、その他は8.8%です。勝ち馬の多さではなく、出走した馬に対して勝った割合で見ると、先行が最も多いという結論は崩れ、差しの方が高くなりました。
勝ち馬の内訳は、出走の内訳と並べて初めて意味を持ちます。 勝った馬の数だけを数えると、もともと多く走っていた集団が、そのまま上位に見えてしまうのです。
同じ数字を、分母を変えて読む
出走数と勝率の関係は、出走数と出走馬数は同じ?でも扱っています。ここでは、勝ち馬の内訳と出走の内訳を並べる手順に絞ります。
数字を読むときは、次の三つを順に確かめると整理しやすくなります。
- 勝ち馬の内訳:勝った馬の中で、どの区分が多いか。
- 出走の内訳:走った馬の中で、その区分がどれだけ含まれていたか。
- 勝率:勝ち数を出走数で割ると、その区分の馬はどれだけ勝ったか。
例の数字では、先行は勝ち数40÷出走数400で10.0%です。差しは25÷200で12.5%、その他は35÷400で8.75%、四捨五入して8.8%になります。出走数が少ない差しは、勝ち数が1つ増えるだけで率が0.5ポイント動きます。率が高く見えても、件数が少ない段階では、一回のレースで結論が変わる可能性があります。
ここで注意したいのは、率の高さを、そのまま「有利」と読まないことです。差しの12.5%は、この例の100レース、10頭立てという条件の中での数字にすぎません。別の期間や別の条件で同じ率が続くかどうかは、改めて確かめる必要があります。
好走例だけで集めると、起きやすいこと
好走馬だけを集める集計には、次のような偏りが起きやすくなります。
- 凡走した馬が見えない:好走した馬の共通点が、同じ条件で負けた馬にも当てはまるかは分かりません。
- 出走しなかった馬が見えない:取消・除外・回避になった馬は、結果の表に現れません。その理由を含めて考えないと、選ばれた集団の数字になります。
- 分母が変わったまま比べる:脚質ごとに出走数が違うと、勝ち数の多さは出走数の違いを反映するだけになります。
- 条件の選び方が後からずれる:好走した例を集めてから「この条件で」と区切ると、結論に都合のよい範囲だけが残ります。
読むときの手順(例で通す)
例として、「先行馬の勝ち数が多い」という数字を見た場面で、次の順に確かめます。
まず、対象を決めます。10頭立て、100レース、出走1000頭。次に、観察するものは、脚質ごとの出走数と勝ち数です。例では、勝ち馬の内訳(先行40%)と、出走の内訳(先行40%)が同じでした。そこから言える範囲は、先行が勝ち馬に多いことは、出走にも多かったことで説明できる、というところまでです。さらに率を計算すると、先行10.0%と差し12.5%の差が見えます。
ただし、この差は200頭の差し出走に基づいた数字です。次に確かめることは、三つあります。別の期間の数字で同じ率が出るか。脚質の区分をどう決めたか(区分の基準が変わっていないか)。出走取消や除外の馬を分母に入れるかどうか。これらをそろえて初めて、率の比較が意味を持ちます。
予想で使うときの注意
好走馬の共通点は、仮説を作る材料として役立ちます。しかし、その仮説を検証するには、出走全体を分母にした率で比べる必要があります。勝ち馬だけを集めた表から、「この条件の馬は来る」と断定するのは避けてください。
また、好走した馬が多く集まっているのは、その条件で多く出走していたからかもしれません。共通点を見つけたら、その条件で走った全馬の結果を並べ、凡走した馬を含めて確かめます。数字が同じでも、分母が違えば意味が変わります。
参考資料
- 選択バイアス(Wikipedia):研究対象の選び方の誤りとしての定義、サンプリングバイアスとの関係を確認しました。
- 生存者バイアス(Wikipedia):何らかの選択過程を通過したものだけで判断し、外れたものが見えなくなる偏りの定義、事故・企業・成功談の例、爆撃機の話の注意点を確認しました。
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