大きく跳ぶ馬ほど速い?ストライドとピッチを分けて見る
直線を走る二頭を見て、一頭はゆったり大きく跳び、もう一頭は脚を細かく動かしているように感じる。「大きく跳ぶほうが速そう」と思ったら、もう一つ、走りのリズムにも目を向けてみましょう。
一完歩で進む距離が長くても、それだけでは速いとは決まりません。同じ時間に何完歩進むかも、速さを決めるからです。 大きさと回数を分けると、見た目の印象が違う二頭が、同じ速さで走る理由も分かります。
一完歩は、蹄が一回つくことではない
馬の走りを考えるときの「一完歩」は、四本の脚を動かす一つの周期です。たとえば右前脚が着地してから、次に同じ右前脚が着地するまでを一周期として追います。四本の蹄が地面につくたびに「一、二、三、四完歩」と数えるわけではありません。
この一完歩で進む距離がストライド長。一秒間に何完歩繰り返すかがピッチです。大きな跳びという印象は主に距離の側、脚が忙しく動くという印象は主に回数の側に関わります。
JRA競走馬総合研究所は、同じ脚が再び同じ状態になるまでを一ストライド(一完歩)とし、速度をストライド長とピッチの積で説明しています。資料:ストライド長とピッチと速度の関係
2秒間で30m進む、二つの走り方
同じ2秒間の走りを、A馬とB馬で比べる例です。A馬は一完歩7.5mで4完歩、B馬は一完歩6mで5完歩進むとします。
- A馬:7.5m × 4完歩 = 30m
- B馬:6m × 5完歩 = 30m
A馬は一完歩ごとの距離が長い一方、B馬は同じ2秒間に一完歩多く繰り返しています。結果として、進む距離は同じ30mです。どちらも30mを2秒で進むので、この区間の平均速度は毎秒15mになります。

一秒あたりに直すと、A馬のピッチは4÷2=2回、B馬は5÷2=2.5回。距離と回数を掛ける関係は、次のようにも書けます。
速度(m/秒)=ストライド長(m/完歩)×ピッチ(完歩/秒)
A馬は7.5×2=15、B馬は6×2.5=15。長いストライドだけを見ればA馬に目が向きますが、時間を加えると、B馬も同じだけ前へ進んでいると分かります。
分かったのは、この区間の速さまで
この例から言えるのは、「跳びの大きさが違っても、同じ速さになる組み合わせがある」ということです。A馬とB馬の能力が同じだと分かったわけではありません。次の区間でどちらが加速するか、どれだけ長くその速度を保てるかは、この2秒間の計算に含まれていないからです。
また、実際の馬が常に同じストライド長とピッチで走り続けるわけでもありません。JRAの解説では、芝とダートの走りを比較するときにも速度をそろえており、馬場や走行中の状況との関係を扱っています。資料:ストライド長およびピッチと馬場や疲労との関係
「大きく跳ぶ馬だから、いつでも速い」「細かく脚を動かすから、必ずこのコース向き」と、見た目から結論を広げないようにします。
次の映像では、一頭の「同じ脚」を追う
次に走る姿を見るときは、一頭を選んで、見やすい横方向の映像で同じ前脚の動きを追ってみてください。まずは、着地から次の着地までが一完歩だと分かるかを確かめます。
連続して見える区間なら、どこを始点・終点にしたかを決めて、何周期分が見えたかを数えます。途中で馬が重なったり、画面が切り替わったりした部分は、推測して足しません。スロー映像を使う場合も、再生画面の一秒を実際の一秒として計算しないようにします。
A馬とB馬の例でそろえたのは、「2秒」という時間と「30m」という距離でした。実際の映像で距離の基準が分からないなら、画面上の脚の開きや馬体の大きさから「一完歩7.5m」と決めることはできません。カメラの角度やズームでも、見かけの大きさは変わります。
観察メモは「跳びが大きいから速い」ではなく、「一頭の同じ脚を追えた/見えた周期数/時間と距離は測れたか」へ。数値がそろわないときは、分かる範囲を残して、同じ区間の走りや時計をもう一度確認する。これが、走りの印象を具体的な観察につなぐ第一歩です。
走行の一瞬とその後を分ける見方は、返し馬の観察を三行で残す記事でも紹介しています。
参考資料
資料確認日:2026年10月4日
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